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持続可能なエネルギー革新を加速する6つの思い切ったアイデア

 

持続可能なエネルギー革新を加速する6つの思い切ったアイデア

 

  • 本記事は World Economic Forum(世界経済フォーラム)のウエブサイトに掲載された増田達夫教授の2018年5月18日付け記事を、同フォーラムの了解を得て翻訳し、掲載するものです。オリジナル記事は下記でご覧になれます。

www.weforum.org/agenda/2018/05/six-bold-ideas-accelerate-sustainable-energy-innovation-tatsuo-masuda/

 

 

“死の谷” に阻まれるエネルギー技術革新

気候変動への戦いにおいては、緩和策や適応策の両面で、色々な手が打たれてきました。危機意識、政策対応、ビジネス対応、技術革新等々、いずれも進展してきてはいます。しかし、化学燃料からクリーンなエネルギーへの移行に手間取る中で、気候変動のインパクトは思ったより速く迫ってきています。国際エネルギー機関 (IEA)は、2040年以降も、化学燃料が支配的地位にあろうと予想しています。2016年にエネルギー需要の81%であった化学燃料は、2040年になっても依然として74%を締めていよう、とのことです。

エネルギー需要全体が増え続けるため、エネルギー・システム変化の効果が削がれてしまうというのが実情です。一般的に、技術革新は、世の中に認知され、広く普及するに至るまでには、多くの課題にぶつかります。例えば、太陽光発電システムの場合、宇宙研究用に開発されてから広く実用化されるまでに30年以上もの月日がかかりました。しかしながら、今の私達には、生まれたばかりの技術が十分成熟したものになるまでに30年も待っている余裕はありません。持続可能なエネルギーの技術革新を加速すべき時は“今”なのです。

 

 

技術革新における大きな障害が、上記のグラフにある技術面、財政面での “死の谷”です。私は、世界経済フォーラムの中のエネルギー低炭素化に特化したグローバル・アジェンダ・カウンシルの一員として、また、個人としても、低コストで燃焼ガスから二酸化炭素分離する技術を含む、革命的ないし常識を覆すような技術の開発者や起業家とかかわりを持ってきました。

このようなイノベーターは、応用研究、パイロットプラントや実証プラント、あるいは市場開拓に必要な資金調達の糸口をもとめ、もがいています。支援してくれそうな機関や投資家にたどり着いたとしても、なかなか先に進めないのが現状です。本格的審査段階に入る前に、ゲートキーパーに、入り口を閉ざされてしまうことも良くあるからです。テコ入れを待っている有望技術は数多く存在しています。支援体勢と環境さえ整えば、これらの技術は、エネルギー・システムの変化に極めて大きな力を発揮します。

 

 

6つの思い切ったアイデア

これらの技術が日の目を見なかったら、気候変動との闘いにおいて、大きな打撃となります。私たちは、この闘に負けるわけにはまいりません。膠着状態を打破し、持続可能なエネルギー革新を劇的に加速するためには、これまでの常識にとらわれない思い切った思考と行動が必要となります。気候変動、都市部の汚染の解消、国際エネルギー安全保障といった課題は、これまで通りのやり方で、克服できるものではありません。世界経済フォーラムの “持続可能なエネルギー技術革新を加速するための提携” プロジェクトに参加し、エネルギー技術革新分野における中心的ステークホルダーの皆さんととことんまで議論したどり着いたのが、次に述べる「6つの思い切ったアイデア」です。

 

 

  1. 国や地域レベルで公的・私的機関共同での投資を実現させることによりディープテックとよばれる大きなインパクトを持つ技術革新への支援を行い、資金投入のリスクの軽減と資金利用の効率化を進めます。この様な手段が的確にデザインされれば、画期的なエネルギープロジェクトへの民間投資を刺激出来るばかりでなく、公的研究開発助成の成功率の引き上げとインパクトの拡大にも、好影響をあたえることになります。
  2. 持続可能なエネルギー技術革新を加速するための独立した国際基金を立ち上げ、公的資金と民間資金を糾合してエネルギー技術プロジェクトを支援します。

  3. 戦略的な公共調達を通じて主流となるようなエネルギー革新を加速します。公共調達の力を利用し、革新的エネルギー技術に最初の市場や解決策を提供し、その発展と商品化を加速するものです。
  4. エネルギー技術革新のための国家レベルの機関を創設します。この分野における公的支援を一元化し、技術革新のプロセス全体を統括・主導していくためのものです。

  5. 官民共同でエネルギー技術のロードマップをつくり、技術革新に関する政府の政策と産業サイドの取り組みを連携させます。これにより、進行が遅れ気味の有望技術をスケールアップする確かな道筋を作ることができます。

  6. 公的研究開発支援の透明性を格段に高め、起業家やイノベーターへの資金提供プロセスの効率化、利用できる機会の明確化と、資金の量的拡大を図ります。

 

 

アイデアを現実のものに

これらのアイデアは、世界経済フォーラムの白書、「持続可能なエネルギー技術革新の加速」で推奨しているものです。これは、重要なステークホルダーによる議論や行動を促す事を意図しているものですが、その実現は、生易しいものではないと思います。例えば、エネルギー技術革新を一元化する国家レベルの機関を作ろうとすれば、既得権益を脅かすとして、既存の機関から強い抵抗にあうかもしれません。エネルギー技術革新のための国際基金の設立は、国益という伝統的壁にぶつかる事でしょう。

しかし、行動を起こすのは今です。共通の目的のために大多数の国が団結・協働するとの意思を表明したパリ協定に続く今なのです。各国が思い切った発想をし、官民双方を巻き込み、技術革新のカルチャー支える政策と枠組みを確立しなければなりません。

締めくくりとして、日本の思い切ったチャレンジにつき、皆様とシェアさせてください。2011年3月の福島原発事故により、原子力発電がほぼ全面停止となったため、日本は、気候変動対策イニシアチブの事実上の世界的リーダーの座から墜落しました。国内エネルギー資源が極めて乏しい日本に取り、二酸化炭素の出ないエネルギー源の主力は、原子力だったからです。

突然、かつ、前代未聞の危機に直面した日本は、官民両部門の密接な協力のもと、2013年に、世界で初めて、国として統合的水素戦略を提唱しました。水素は、二酸化炭素の出ないエネルギー資源として、また、エネルギーの輸送や貯蓄を担う物質としても重要視されています。2017年に大手多国籍企業が集まりハイドロジェン・カウンシル (Hydrogen Council) を立ち上げた背景には、日本のイニシアチブによる刺激が多分にあったと思われます。思い切ったステップが、次のステップを生むのです。この様な好循環を起こして行こうではありませんか。

 

翻訳;成内 麻樹 / 監訳;増田 達夫

  • 筆者は、名古屋商科大学(NUCB)大学院の増田達夫客員教授。ここで述べられた見解は、全て筆者個人のものであり、世界経済フォーラムのものではない。

 

 

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