心臓の鼓動を彩色する
心疾患は世界中で最も多く挙げられる人の
死因の一つです。良好な薬剤を容易、かつ早期にスクリーニングする方法を見つけるのは必要不可欠な事です。
17世紀の偉大な二人の科学者、アイザック・ニュートンとロバートフックの両者は、私達の爪や髪と同じ素材で出来ている孔雀や蝶の羽が、どうすればあの様な鮮やかな品質の色になり得るのかを解明しようとしていました。
そして両者は同じ結論に達します。
あの色は羽の上にある、あまりに小さくて肉眼では観察する事の出来ない、微細な構造の存在によるものに違いないと。両者は構造色の存在を推論したのです。
それからの300年で科学やテクノロジーは大変に進歩し、私達は蝶の羽の上にある、あのなんとも鮮やかな色を形成する微細な構造を、観察できるだけではなく、自分達で容易に作成する事も出来る様になりました。
そして、この孔雀や蝶の羽にある様な構造色に触発されたシバニア・イーサン教授が率いる京都大学物質細胞統合システム拠点 (iCeMS) の研究者達は、ハンガリーのセンメルブェイス大学、そして京都大学医学研究科の研究者達との共同作業により心臓細胞を計測する構造色装置を製作し、(製作した装置が)調剤試験のプロセスを迅速化するのに役立つ事に期待を寄せています。
蝶の羽の様に、この装置は高分子ゲル上で発達した微細パターンから構造色を作り出します。装置上で心臓細胞が鼓動している事により、構造色が低倍率の顕微鏡で容易に検出できるものに変化するからです。
医薬品開発の際、人体で試す前の段階で潜在的な危険性のある薬剤を取り除く為に様々なタイプの細胞で薬剤をスクリーニングする事は必要不可欠です。この開発初期の段階において、ハイスループット技術は時間とコストを節約する為に大変重要なものです。この新しい装置は、心臓細胞の収縮を光の反射特性の変化に利用する事によって、容易かつ非侵襲的に心臓細胞を計測する事ができ、ハイスループット試験を容易なものにします。
筆頭著者であるアンドリュー ギボンスは「心疾患は、世界中で最も多く挙げられる人の死因の一つです。良好な薬を、容易かつ早期にスクリーニングする方法を見つけるのは必要不可欠な事です。」と言います。
研究者達は薬事申請の間中、心臓細胞の鼓動パターンを監視し、新しい装置の実用性を実証する事が出来ました。低倍率で観測する事ができるこの新しい装置によって、細胞培養全体の鼓動パターンを一斉に記録する事ができたのです。
高分子と物質科学を専門とするiCeMSにある研究室・Pureosityを統括するシバニア教授は、物質科学とバイオロジーの世界が交わる領域に興味を持っています。「このプロジェクトは私達にとってとても特別で刺激的なプロジェクトでした。この様に多くの学問分野が集合的に行う研究が容易に行える環境を持つ機関はなかなかありません。」と語ります。
論文タイトルと著者
Real-time visualization of cardiac cell beating behaviour on polymer diffraction gratings.
Authors:Andrew Gibbons, ab Orsolya Lang, c Yoji Kojima, d Masateru Ito, a Koh Ono, e Koichiro Tanaka, ab Easan Sivaniah a
- Institute for Integrated Cell-Material Sciences (iCeMS), Kyoto University, 606-8501 Kyoto, Japan.
- Department of Physics and Astronomy, Kyoto University, Kyoto, Japan.
- Chemotaxis Research Group, Department of Genetics, Cell and Immunobiology, Semmelweis University, Budapest, Hungary.
- Center for iPS Cell Research and Application (CiRA), Kyoto University, Kyoto, Japan.
- Department of Cardiovascular Medicine, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan.