イーサン・シバニアiCeMS客員准教授(当時英ケンブリッジ大、2013年7月よりiCeMS主任研究者・准教授として着任予定)らの研究グループは、 紫外線を用いた多孔性高分子膜の開発に成功しました。この研究成果により、従来の高分子膜と比べ、物質を選び分ける性能が劇的に向上しました。また、従来 の高分子膜と比べ、100倍から1,000倍、気体分子などを通し易くしました。この成果は、分離処理が不可欠なエネルギーやガソリン生産などに伴う、環 境への負担を軽減する技術の開発に寄与することが期待されます。
今回、同研究チームは2ナノメートル以下の微細な穴を有する高分子材料(PIM)に着目しました。従来の高分子膜は密に詰まっているため気体を通しにく く、分離の過程で大量のエネルギーを要しました。PIMで作られた膜は気体分子を通しやすい一方で、材料の歪みやねじれなどによってPIM同士に大きな隙 間が生じ、物質の選別が困難でした。この問題の解決策として、PIM表面に紫外線を照射し反応性オゾンを生成させ、膜表面の分子構造を破壊しました。その 結果、膜表面には隙間のない均一なPIM膜が合成され、PIM特有の気体分子の通しやすさを保ちながらも、選択性を向上することに成功しました。
この成果の可能性と今後の展望について、シバニア客員准教授は「高分子膜をさらに改良し、実用性の高いものを作りたいと考えている。ポリマー材料は気体分 離以外にも、液体や蒸気分離、海水の淡水化、感知センサー、フォトリソグラフィ(集積回路用の表面加工)技術、エネルギー貯蔵などへの応用が効く。産業に も役立てることができるよう、さまざまな用途に合わせて薄さ、大きさ、材質などを調整することが次の課題」としています。
論文はロンドン時間2013年5月28日、英オンライン科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載されました。
文献情報
Photo-oxidative enhancement of polymeric molecular sieve membranes
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