Pureosity

menu openmenu close
website designed by 株式会社プレタク

ニュース

“亀裂”と“光”で絵画を作製 – 国際的な総合科学誌Natureに掲載されました。

 

私達の研究が国際的な総合科学ジャーナル ネイチャーに掲載されました。

 

“亀裂”と“光”で絵画を作製。

インクを使わない高精細な画像印刷で作製された、1mmの葛飾北斎「神奈川沖浪裏」。世界最小サイズの浮世絵がプリント技術の未来を示す。

 

葛飾北斎(1760 – 1849) は、西洋美術におけるダ・ヴィンチ、ゴッホ、レンブラント・ヴァン・レインと並んで挙げられる日本美術界の大巨匠です。葛飾北斎の残した名作の中でも「神奈川沖浪裏」は、北斎の芸術的才を示す最高傑作であると言われています。

このたび、Pureosity は大きさ1mm、世界最小サイズの葛飾北斎「神奈川沖浪裏」をインクを一切使わずにフルカラーで作製しました。本成果は英国科学誌Natureに6月20日(ロンドン時間)に掲載されます。

色彩や形を記すことへの欲求は太古から存在しています。葛飾北斎が木片と小刀を手にする 約38000年前にインドネシア・東カリマンタン州のルバン・ジェリジ・サレー洞窟では名も知れぬ住民が黄土を用いて雄牛の壁画を描き、現在それが世界で最古の”絵”として知られています。やがて人類史上に美術という分野が生まれ、美術史を生みながら発展し、デジタルアートといった新しい分野が加わった現在でも変わらず、人は色や形を記し表現してきました。

私達は iCeMS (物質細胞統合拠点)において、”物質”そのものが形を記し色彩を放つという、今までになかった方法で「神奈川沖浪裏」を作製しました。この研究を開発した私達 Pureosityを率いるシバニア イーサン教授はこう説明します。

「ポリマー(高分子)が圧力にさらされる、つまり、 分子レベルで引っ張って伸ばした状態になった時、「フィブリル」という細い繊維を結成する作用(“クレージング”と呼ばれる)が起こります。フィブリルが視覚的に認識出来るレベルでクレージングが起こった時に視覚効果が得られるのです。子供の頃、学校で手持ち無沙汰な時に透明なプラスチックの定規を繰り返し曲げていると、曇ったような不透明な白色に変わってしまったことがあったでしょう。それは定規(プラスチック)がクレージングしたということなのです。」

私たちはOM(Organized Microfibrillation: 組織化したミクロフィブリレーション)と呼ばれるクレージングを調整してフィブリルを組織的に形成させ、その形成したフィブリルで特定の色の光を反射する素材を開発しました。フィブリル層の周期を調整することによって青から赤まで全ての可視光を発色する事に成功しました。最新鋭のカラー パレットが誕生することで、プリントにインクは要らなくなると期待されます。

動物学者たちは昔から、インクなしで形成される「色」に馴染みがあり、それを ”構造色”としています。自然界で見られる蝶の羽や孔雀の雄の見事な羽、鳥たちに見られるタマムシ色のキラキラした鮮やかな色はそれと全く同じ原理で生み出されています。実際に、地球上の自然の営みの中には色素を持たずに光の反射によって体の表面を魅惑的で美しい色に彩っている生き物たちがいます。

私達のOM技術は、さまざまなフレキシブルで透明な素材上に画像解像度数14000 dpi までの大規模なカラー印刷をインク無しで行うことを可能にしました。これは例えばお札の偽造防止など、多くのテクノロジーへの応用が考えられます。しかし、シバニア 教授はさらに斬新なOMテクノロジーの応用を示唆しています。

「OM技術は、通気性もあり身体に装着可能な多孔性チャネルのプリントも可能です。例えば医療やヘルスケア分野において、肌に装着可能なフレキシブル人工環境器系流路チップやコンタクトレンズにOMテクノロジーを組み込んで、生体情報を直接、あるいは クラウドを使って医療専門家へ送信するといったことが可能になると考えています。」

OM技術は、そのものを使用することや、何かに組み込むことも可能な柔軟性の高い技術です。Pureosityでは、プラスチックの1種であるポリカーボネートといった一般的に使用されているさまざまなポリマーでOM技術の使用が可能であることを実証しています。 食品や医薬品の包装にプラスチックが広く使用されていますが、食品や薬品の安全における分野でOM技術を応用することが出来ると期待されています。さらに、開封の有無や異物混入を防ぐセキュリティーラベルにOM技術を組み込むことによって透かしのようなものになっていくかもしれません。

論文の筆頭著者である Pureosity 伊藤 真陽助教 (京都大学 / iCeMS)は、今回の画期的な研究によって提起されたのは基本理念にすぎないと考えています。「今回、構造色を示すミクロな構造を形成するために圧力を1 ミクロン以下のスケールで調整できることを立証しました。OM法は構造色以外のマテリアルの性能制御にも役立つ可能性があります。今回私たちはポリマーでOM技術を実証しましたが、金属やセラミック素材においても亀裂は起こると予想しています。私たちはこれらのマテリアルでも亀裂の制御ができるのではないかと研究を進めています。」

 

 

論文タイトル
「組織されたマイクロフィブリル化によるガラス状高分子中の構造色」
著者
伊藤真阳1,2†*, Andrew H. Gibbons 1,3†, 秦德韬1,2, 山本大辅1, 蒋涵东1,2, 山口大辅1,2, 田中耕一郎1,3, Easan Sivaniah1,2*.

Nature:国際総合科学ジャーナル

 

 

Page Top